sail in the same bort

□trigger
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ナーオスの崩れてしまっている教会の裏に降りて、ぼんやりと空を仰ぐ。
僕の気持ちなんかと裏腹に真っ青で、空っぽな僕なんかと違って色と雲に埋められた空を。
泣きはらしたせいで目が何だか痛い。
擦ったりなんだりしたせいだ、きっと。

(こんなところ見られたら、みんな優しいから心配されちゃう…)

軽く自分にファーストエイドをかけながら、次は地面を眺める。
僕にみんなの元へと戻る資格なんてあるのかな。
そんなことを考えたりしていたらまた泣けてきた。
考え込んじゃうのは僕の悪い癖らしい。
僕には僕のやるべきことがある。
それまではきっと帰れない。

(でも、そのやるべきことは本当に僕がやりたいと思ってること?)

このまま考えていたら頭がパンクしちゃう。
何度も深呼吸を繰り返してから僕は教会の表へと出た。
顔がどうしても上がらない。
前を向くことができない僕自身がものすごく情けない。
はぁ、とため息を吐くと地面からドアのようなものが開いた。
それに僕はビッと背筋を伸ばして顔をあげる。
ドアから覗いたのはさっきまで眺めていた空と同じ美しい色の髪色の持ち主の女性。
何故かよくわからないが滲み出ようとする涙に僕は戸惑いながらも必死にこらえた。


「やっぱりモア君だ」


「アンジュ…さん」


ニコリと心が救われるような笑顔になんだか癒された気がする。
アンジュが手招きするもんだから少し躊躇いながらも歩み寄っていくと腕を掴まれた。
いきなり掴まれたから驚いて「うわっ」と声をあげてしまう。


「ど、どどどうしたのアンジュさん」


「みんな待ってたのよ、ほら早く」


子供のようにぐいぐいと腕を引っ張るアンジュに僕は自然と笑みがこぼれる。
中に入っていくと本だらけの狭い部屋に七人も収まっていた。
みんなの視線が一斉に集まって、僕は固まる。

(一人だけ殺気に満ちた視線を送ってくるのが気になるけど…)

とりあえずそれは放っておいて、また笑顔を作りながら頭を掻く。


「いやぁ、ごめんごめん。ご迷惑をお掛けしました、てね」


僕がそういうといつもみたいに冗談めいたため息をついてくれた。
さっきまでと全く変わらないみんなに、ひどく胸が痛む。
だが、こんなところで辛そうな顔を見せてはいけないし、況してや泣いてしまうなんて以ての他。
作り慣れた笑顔をみんなに見せていると、みんなとは表情が違うイリアが僕の方へと歩いてきた。


「何か、あった?」


「──え?」


作り笑いが崩れかける。

(でも、まただ…)

崩れるのを必死にこらえながら笑顔のまま「何のこと?」と問うが、イリアの表情は変わらない。


「だって、悲しそうだから」


「………」


崩れ、た。
僕の仮面がガラガラと音をたてて崩れ、壊れる。
まいったな、と思いながら仮面もないまま笑う。


「イリアには何でもお見通し、か。でも、平気だよ。何でもないんだ」


「何でもないわけないでしょ?モアがそんな表情するほどのことがあったんじゃないの?」


「イリア」


と、イリアの隙をついてイリアの額に口付けを落とした。
離れるとぽかんとした顔で僕を見上げるイリアに思わず笑顔。
それからすぐにイリアは顔を真っ赤にして額を押さえる。
言葉にならないことを言いながら僕を見るイリアに、僕は人差し指を立てた。


「何でもないの」


ウインクをしてからみんなの元へと戻る。


「モア君も来たことだし、手分けして調べようか。まず地域別、年代別に本を選んで集めていくことが最初の作業ね」


信仰の深い地をこの図書室で調べるらしい。
エルマーナはともかく、イリアとスパーダは調べごとなんてやりたくないと言わんばかりの言い訳に僕はクスクス笑う。
イリアとスパーダのアホらしい言い訳にアンジュは呆れた表情をしてすぐに笑った。


「じゃあ、こうする。スパーダ君はルカ君の助手。イリアはわたしの助手。エルはリカルドさんの手伝い。モア君はレインの助手。これでサボったりできないでしょ?」


「セ…じゃなかった、アンジュ。いいか?」


「どうしたのかな、レイン?」


「モアと一緒は嫌だからモアとエルマーナと交換してください」


「酷いやレイン!!」


レインも律儀に手を挙げて何を言うのかと思えばチェンジとは。
相当レインに嫌われているという現実に僕は相当のショックを受けた。

(仕方ないとは…思ってるんだけどね…)

どうせ自業自得なんだけれど。
アンジュはほんの少し黙ってから笑う。


「良いわよ。好き嫌いはあるものね」

「アンジュさん、それって僕が嫌われてるってことだよね…?」

「あら、そうじゃなかったの?」

「ずがーん!!うわぁぁぁん、僕は信じたくないんだからね!!」

「勝手に信じなければいい」

「レインが、レインが酷いようわぁぁぁん!!」


やっぱりまたこうなってしまうんだね、と泣きながらそう思った。
もう既にルカと並ぶいじられ役の僕はただ泣くばかり。
そんなときにアンジュが一度手を叩く。
本でいっぱいの狭い部屋でその音は反響する。


「はい、では開始よ」


「ぐすぐすえーん」


「ほら、行くぞ」


止めどなく溢れる涙をコートで拭いながら、僕は立ち尽くしていた。
そんな僕の方を抱くようにして僕を連れていくリカルド。
密着しすぎではないか、とは思いながらもリカルドに連れていかれることにした。




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