sail in the same bort

□alone
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「ここだここだ…。親から逃れるために、こっそり隠れ場所を作ってたんだ」


「ここは多分今も見つかってないと思うよ」


レインとスパーダが二人でニコニコと不気味に笑っている。
一回焼きもち妬くとすべてがどろどろに見える、人間の神秘ってやつかもしれない。

(スパーダも仲間なんだからこんなんじゃダメだよね。なんとか視界のフィルターを外したいものだ…)

セルフ式かな、とくだらないことを考えているといつの間にか会話が進んでいたらしい。
このすぐに自分の世界に入っちゃう癖も直さなきゃ。
リカルドに指摘された、つまりみんなにもバレちゃっている可能性も高いから気を付けるようにしよう。

(直すところが一杯あると大変だな。どれから直そう)

むむむ、と考え込んでいるとリカルドが僕の隣にまでやって来た。
ハッとまた我に返る。
直せてないじゃん自分、と泣きたい気持ちを抑えながらリカルドの顔を見上げた。
リカルドの視線はマンホール一直線。


「フン、結構なもんだ。ではここで落ち合うことにしよう。みんな、定期的にここに戻って連絡を取り合うんだ」


「ここを拠点にする、ということだね」


話に参加するように言うとリカルドは「そうだ」と頷いてくれた。
僕は何故か嬉しくなって笑ってしまう。


「本当は二人一組でコイントスできりゃあ良かったんだけどよ。七人じゃ無理だな」


スパーダが立ち上がってポケットから出した一枚のコインをみんなに見せながら言った。
僕は素朴な疑問を覚える。

(コイントスでどうやって班分けすんの?)

僕がバカなだけなのだろうか、それともスパーダの知能に僕が追い付けていないだけなのか。
すると、レインがスパーダの前に出た。


「じゃあ適当に振り分けよう。ルカとアンジュとリカルドはテキトーに二手にでも分かれて住宅地区を。イリアと…変態魔神は商店街を」


「変態魔神って何!?何なのさぁぁぁぁ!!」


レインの中で変態魔神として定着してしまったらしい僕は自分を不憫だと思うことにした。

(あれ、目から汗が止まらないや…)

また情けなくめそめそと泣き出す
僕にイリアは「大丈夫よ」と言ってくれたのだ。
瞳は潤んだまま顔を上げる。
昨日の出来事は夢じゃないはずなのに、イリアは怖かったはずなのに。

(何でまたこうやってそばにいてくれるの?)

逃げられたのは、さすがにショックだった。
だって、今の僕に怯えて逃げてしまったこともあるけど、明日から同じように接してくれなくなってしまったと思ったからだ。
言い訳したってきっと元には戻れないと、そう思っていたのに。

(守りたい)

そんなみんなを、僕は守りたい。
どっちを守り抜きたいのかまだ決められないけど、できるならば。
どちらも幸せになってほしいよ。

涙を拭ってからイリアの手をとって、力強く握った。
戸惑うイリアに笑みを見せて「ありがとう」と言う。
こんな言葉じゃ伝わりきらないけれど、本当にありがとう。


「行こうか」


「う、…うん」


握り返してくれた僕よりも小さな手。
温かい温もりを手袋越しに感じながら僕らは歩き出した。





「イリアはこの辺の人に話聞いててね。絶対にこの辺から離れちゃダメだよ」


「モアは何するのよ?」


僕はニコニコと笑いながら「色々」と言った。
するとイリアは案の定気になってしょうがないという様子になる。
それを僕は笑ってから、握っていたイリアの手を離して人がいないようなところまで来て漆黒の翼を出す。

(こんなところ、一般人はもちろんみんなにも見せられないからなぁ)

あははと一人苦笑いを浮かべながら空高く舞い上がった。
バレないように近すぎず、みんなをすぐに飛んでいって助けられるように遠すぎず空へと。
町全体を見ていると、ルカがアンジュとリカルドと別行動をとっているのか一人で家の前に立っているのが見える。
あれはルカの家だろうか。
ルカの前に二人の横と縦にそれぞれ広い少年が現れ、何やら話し込んでいるようだ。
すると、角の向こうから兵士が見えた。
助けなきゃ、と思ったが今この姿でルカの前に現れたら二人の少年にバレてしまう。

ふと、イリアの方に視線を変える。
イリアの近くに兵士が近づいていく。

(このままじゃ見つかる…!!)

僕は急降下し何も知らないイリアを抱き上げた。
イリアは「え」と僕に抱き上げられた瞬間に声を漏らしてそのまま空へ。


「う、うわわぁぁ!?な、何これ!!飛んでる…?」


「耳元で叫ばないでー、耳が痛い…」


イリアは素直に謝ってから大人しく僕にお姫さまだっこされていた。
この状況に頭が追い付けていないイリアがようやくこの状態を理解したのか暴れだす。


「ちょ、ちょっと!!何してんの下ろしなさいよ!!」


「下ろしちゃったら兵士に見つか…だーもー!!大人しくしろぉぉ!!」


まったく、チトセとは大違いなんだから。
そう心の中で呟いてからイリアに「ほら」と下を見るように促す。


「なに、兵士がうじゃうじゃいるじゃない…!!」


「誰のせいでしょーね?」


「…あのバカ」


ぽつりと呟いた一言。
どうやら思い当たる節があるらしいが、僕自身もあの人しか思い当たる節がない。


「は、早く戻って早く下ろしなさいよ!!」


「そんなに僕に抱かれてるのがイヤ?僕悲しいな、ぐすん」


「泣き真似はいいから!!早く!!」


苛立っているのか照れているのかわからない口調に僕は「うぇーい」と拗ねたガキのように了解した。
きっと苛立ってる方だろうな、と思いながらイリアをぎゅっと抱き締める。


「…なっ、何…!?」


「ちゃんと掴まっててね。じゃないと、落ちちゃうから」


イリアの返事も待たぬまま僕はマッハでマンホールの場所へ。
イリアの叫び声ですら聞かないようにし、そのまま到着。
飛び方は荒かったが、下ろすときは優しくしてやると急に殴られた。


「酷いよ、速くって言うから速くしたのに…」


「早くって言ったのよバカ!!」


「バカなんて失礼だなイリア。バカって言う方がバカなんだって」


イリアはうんざりしたように「はいはい」と言ったことに僕は頬を膨らませてしまう。
そんな僕を気にもしないでマンホールの中に入っていってしまったイリアを追いかけようとしたその時。
マンホールの中からボリューム最高の怒声。
僕は耳を塞ぎながら「僕知ぃらない」と舌を出して呟いた。




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