sail in the same bort

□alone
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「さぁて、それじゃ転生者を探しに行こうよ」


王都レグヌムに着いたところでイリアが言った。
ニコニコとまるで他人を頼るような笑みに僕は笑顔で返す。


「でもさぁ、適応法で捕まっている人は町にいないんじゃないの?」

「隠れている人が絶対にいるはずよ」

「どうやっていぶり出すつもりだ?」

「第一、会ってくれるの?」

「第二、情報はないのか?」

「第三、確かにここなの?」


イリアへの質問攻めに僕も参戦すると、イリアは僕に恨めしそうな視線を送っている。
視線をそらして口笛を吹くと、イリアは「うぐぐ…」と唸ってから途端に胸を張った。
そんなイリアを見て僕は「お」と声を出す。


「そ、その解決を含めての情報収集でしょ?さ、とにかく行きましょうよ」


結局他人任せか、と何だと言わせるような勢いに僕は呆れ果てた。
イリアにスパーダは「どこへだよ?」ともう背を向けようとしていたイリアに問いかける。
それでイリアの限界を越えたのか声を荒らげて「どこか、よ!!」と言いながら地団駄を踏んだ。
そのままぷんすかと歩いていってしまったイリアに僕は「あーあ」と言う。


「…まぁ、突っ立っているわけにもいかんな。とにかく町を歩いてみよう」


リカルドも呆れたようにそう言った。
イリアは全世界を呆れさせるつもりらしい。
と、それは冗談だが。
怒っていってしまったイリアの後をついていくように歩き出したレイン。
レインについていくみんなを目だけで追ってから俯いた。

(そうだ、せっかくみんなの仲間になったのに目的のひとつも果たせてない)

思い出したように顔を上げるが、今抜けたら怪しまれるだろう。
色々終わったら少し抜けよう、と思いながら僕はまた一人で考え込む。
こんなんでいいのかな。
ねぇ、みんな聞いてよ。
僕、みんなの仲間でいる資格ないんだ。
だって、僕は──


「クロスウェイ」


「はえっ!?」


いつの間にかまた俯いていた僕の腕を掴んだ誰か。
僕は自分の世界に入り込んでいたせいで全くその存在に気付けず奇声を発してしまう。
顔をあげると漆黒の衣服に身を包んだリカルドだった。


「また考え事か?」


「えっ、あー…うん」


またって何だろう。
リカルドは自分より背の小さい僕を子供扱いするように頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
僕は「うわ」とか「ちょ、やめ」とか言うが、それほど嫌でもない。
きれいに結んだ髪をぐしゃぐしゃにして気が済んだのかリカルドは撫でるのをやめる。


「考え込むのはお前の癖らしいな」


「……、リカルドには関係ないよ」


僕が不機嫌そうな顔で言うと、リカルドは僕には到底できないまさに大人というような笑みを見せて「それもそうだな」と言ってから歩き出した。
一体リカルドは結局何をしたかったのかはわからないまま、ぐしゃぐしゃの髪を整えながら僕も駆け出す。




みんなと合流すると急にリカルドが舌打ちをして「隠れるぞ」と言った。
僕たちは何なのかわからないまま「急げ」と言うリカルドに急かされながら木陰に隠れる。
しばらく息を殺して黙っていると、押し殺した声で「行ったぞ」とだけ呟くリカルドに僕は止めていた息を吐く。
確かめるために駆け足で覗き込むと、兵士の後ろ姿が見えた。


「うっわ〜、危なかったね」


駆け足でみんなの元へと戻り、息を吐いて額の汗を拭うような仕草をしてみせる。


「お前、ビビりすぎじゃねェ?一般人がパッと見ただけで転生者かどうかわかるわけねーって」


「でも、スパーダは大暴れして兵士に取り押さえられてたじゃないか。君は覚えられているかも」


ルカの言葉に反論なんか言えずに「う…」とだけしか言えずに俯くスパーダにクスクスと笑う。
だが、僕自身も人を笑うことのできる立場じゃいことを思い出して笑うのを止める。
モアも同じようで小さく困ったような笑みを見せ、僕は眉尻を下げて頭を掻く。


「トライデント家ってここにあるだろ?だから…私も覚えられてるかも…」


「じつは僕もスパーダを助けるために大暴れしちゃって」


「は?俺は知らねぇぞ」


「だって君が気絶してる間に助けてたんだもん、ぐすん」


うそ泣きをしてみせるとスパーダはうんざりしたようにため息をついた。

(君を助けようとしただけなのに何でため息つかれてるの!?)

不覚にも本気で泣きに入ってしまった僕自身情けなく思う。
大丈夫だよ僕、情けは人のため為らずっていうくらいだからきっといつか恩返しされる日が来るさ。
と、自分を励ます。

(僕ってかわいそうだよね…?)

涙を手の甲で拭いながら情けないの言葉ばかり巡っていく。


「みんな覚えられてるかもしれないのね。モア君は泣き止んで!!とにかく安全に身を隠せる場所を確保しないと」


「う、うん。僕頑張る。ぐすぐす」


さすがアンジュ、お母さんみたい。
何て言ったらお姉さんと呼びなさいとか言われちゃいそうだからとりあえず堪えておいた。


「その建設的意見に賛成しよう。人目につかず、出入りが容易なところが理想なのだがな…」


みんなが「う〜ん」と唸って考え込んでいる。
僕は全く思い当たる節がないので考えるふりだけをしていると、ふと思い出した。
そういえば、この辺に。
完全に思い出そうとした直前にスパーダが思い出したように手のひらを打つ。


「あ、そーだ。いいところがあった」


スパーダの一言にルカは「どこなの?」と問いかけていた。
スパーダはルカに何やら妖しい笑みを見せてからレインに視線を向ける。
そんなスパーダにきょとんと首をかしげるレイン。


「工場地帯に行こう。そこのマンホールだ」


「あ、そっか。あそこだね?」


思い出したらしいレインに頷いてみせるスパーダに焼きもち。

(レインと繋がってるみたいで、なんか気にくわない)

むー、と不愉快そうな表情を僕が見せていることに全く気付いていない二人にイライラしてきてしばらくしていなかった舌打ちをした。
歩き出したレインにみんなついていくもんだから、僕も仕方なくついていく。




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