ABYSS

□花が作る思い出と幸せと
1ページ/1ページ


「アニスちゃん……。お熱が出たの?」
「……うん。ゴメンね。ママ……」
「謝らなくていいのよ。ゆっくり休んでね」


私が本当に小さい時の思い出。

熱が出ちゃったけど、薬を買えないからパパがお隣さんに薬を分けて下さい。って交渉に行った。




だけど、パパはなかなか帰って来なくて……。








「アニス……。ゴメンね。薬は分けて貰えなかったんだ」
「そんなのいーよ!」

寝てたら直ると思うし。パパが本当に申し訳なさそうに言うから何とか元気付けようと笑う。

「アニス、代わりと言ったらなんだけどお花を拾ってきたんだ」

パパは後ろに回していた手を前にして小さな小さな花束を私に渡してくれたんだ。

黄色の花やピンクの花や白の花……………



花束って言うには、花が足りないけど気分がよくなった気がした。













「イオン様ー?」


ベッドで寝込む、イオン様の手を握り顔を除き込む。


「大丈夫です。アニス」

疲れがきちゃったんだろな。顔色がすごく悪い。


それでも、私に心配かけちゃいけないと無理して笑ってるのが痛々しくも綺麗で。










「イオン様、これ……」








私はイオン様の白い手に小さな花束を乗せた。

花壇からこっそりと切りとったお花。


「ありがとうアニス」

イオン様は花束のリボンをゆっくりとほどいた。


髪を結ぶ用の黄色いリボン。


「はい。どうぞ」



髪にイオン様の手の感触。


「イオン様……?」

私の頭にピンクの花。



「アニスによく、似合ってますよ」








そう言ってにっこりと笑った笑顔は私を安心させるものじゃない。


「ありがとうございますぅ♪はい♪イオン様も♪どーぞ♪」









私は白い花をイオン様の髪に結び付ける。














優しく綺麗な花が生み出すものは幸せな笑顔と思い出なんだ。









小さい時も今もこれからも……………
















end
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ