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□カッコウ
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 祖父の家の裏庭に大きな樹が一本あった。それが何の樹だったのか、本当に大きな樹だったのかは、確かめようもない。母の記憶も父の記憶も曖昧である。父などは樹があったことすら覚えていない。
 寂しい樹だった。祖父はいつも鳥の鳴き声入りのカセットテープを鳴らしていた。それで鳥を呼び寄せているんだと教えてくれた。結果はおかしな鳥が一羽やって来ただけである。私はカセットデッキを隠さなきゃダメだと主張した。しかし、結果は同じだった。
 私はうんざりしながら言った。「あああ、またあの鳥だ」
 祖父は、「あの鳥は、お祖母ちゃんだよ」と言った。
 私は不審に思い、手当たり次第に、その鳥のことを尋ねた。答えはカッコウだった。確信を得た私は、胸を張って祖父に教えた。祖父はいつもの優しい笑みで「そうだね」と言って、樹の上のカッコウに目を細めただけだった。

 夏も近付いていた。しばらくすると、色んな鳥の鳴き声が聞かれるようになった。祖父が逆転満塁ホームランをかっ飛ばしたのだ。鳴き声の種類がどんどん増えていく。私はドキドキしながら樹の上を見つめた。しかし、残念ながら、生い茂った木の葉のせいで、肝心な鳥の姿を見ることは出来なかった。影を捉えるのが精一杯。目が追いつかなかった。飛び立った、と感動した途端、それはいつでも例のカッコウであって、がっかりさせられたものだ。
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